書籍の紹介です - 四宮義正
2023/08/07 (Mon) 22:25:35
松下貢・早川美徳・井上智博・川島禎子著
『寺田寅彦「線香花火」「金米糖」を読む』(2023年8月11日、窮理舎)2,300円(税込2,530円)
寺田寅彦の作品を読むシリーズの第3弾。企画力と編集力に優れた本です。口絵には寅彦の書き込みがあるルクレティウス著『物の本質について』(英文)や金米糖・線香花火の実験カラー写真などが多数掲載されています。
まず寅彦の「備忘録」が収載されています。詳しい注釈があり、違った味わいで読むことができます。小見出しは、仰臥漫録/夏/涼味/向日葵/線香花火/金米糖/風呂の流し/調律師/芥川龍之介君/過去帳/猫の死/舞踊、となっています。
次に松下貢「寺田寅彦の科学に見られる先見性」、早川美徳「金米糖の研究をめぐって」、井上智博「線香花火の不思議と研究について」があり、各著者が専門分野の最新研究を踏まえて解説しています。
圧巻というか白眉は川島禎子「寺田寅彦「備忘録」に見る未来への胚子」です。ここに至って、最初に「備忘録」の全部が掲載されている理由が分かります。「おわりに」には、「「備忘録」は、漱石の影響を通して、当時の科学や哲学とも共鳴した作品であるといえます。また本書のテーマである「線香花火」「金米糖」に関連して言えば、偶然性の高い連句的・音楽的構成や連想の自由な方向性、火花の躍動的なイメージが見出され、寅彦にとって科学と芸術が不可分のものであったと解せます。」とあります。このまとめに至る詳細な説明が書かれているのであり、これほど寅彦に寄り添って、広く深く関連資料を読み込んだ論考は今までにありませんでした。「備忘録」全体の流れ、漱石からの影響、土佐とのつながりなど、オリジナリティーに溢れています。とても全部は紹介しきれませんので、ぜひ手に取ってほしい本です。
下記のWebページに出版社の詳しい情報があります。
http://kyuurisha.com/info/newbook-info5/